国際的に日本の小学校の学級規模(1クラスの人数)が大きいことをご存知でしょうか?
「小さなクラス:少人数学級」は世界的な流れになっていましたが、日本は少々後れを取りながらも「35人学級」へと学級規模が縮小することが決定しました。
学級規模の縮小により、教育現場ではどのような変化があるのでしょう?海外の事例も踏まえながら、少人数学級の効果・課題を見ていきます。
約40年ぶり!小学校全体で「35人学級」へ引き下げ
小学校を35人学級へと引き下げる「改正義務教育標準法」が2021年に決定しました。これは1クラスの学級規模の標準を40人から35人へと縮小し、今後5年間かけて段階的に人数を調整するもの。小学校1年生のみ、2011年から35人学級へ規模を縮小していましたが、小学校全体で引き下げるのは1980年に45人学級から40人学級へと引き下げられて以来、約40年ぶりのことです。
少人数学級の実現は、長きにわたり教育現場から要望が挙がっていたようです。その理由は、教員の目が届く少人数学級の方が学習のつまずきを解消しやすくなるということ。時代の変化により、さまざまな生徒が増え、一人ひとり個別に寄り添うのは大人数のクラスでは難しい場面があったのでしょう。
少人数によるきめ細やかな指導体制へと変更することで、「誰一人取り残さない教育」「ICTを活用した教育(GIGAスクール)」「密を回避した教室環境」「教員の長時間労働の軽減」などを、文部科学省は実現しようとしています。
文部科学省は、令和時代の「新しい学びのスタンダード」として、35人学級の少人数学級は欠かせないものと位置づけています。
日本は学級規模が大きい国。海外の状況は?
ちなみに、OECD(経済協力開発機構)「図表でみる教育(2018年)」によると、日本は小学校1クラス当たりの生徒数がOECD加盟国の平均を上回り、世界的に見て学級規模が大きい国のひとつです。OECD平均の学級規模が小学校21.1人に対し、日本では小学校27.2人。近年、さまざまな国で学級規模を縮小させているのも今回の決定に影響していることでしょう。
ここでは、アメリカ・イギリスの状況を見ていきましょう。
海外事例1.アメリカ
アメリカでは多くの州で学級規模が縮小傾向に。OECDの発表によると、小学校の学級規模は1クラス20.9人となっています。「米国における学級規模縮小の効果に関する研究動向(2008年)」によると、マイノリティや低所得者層家庭の生徒に対して、少人数学級と学習効果の関係性が確認できています。
教員の長時間労働の改善という面では、教員のサポートを行う補助教員がいたり、課外活動やカウンセリングに教員は関わらなかったりと分業をしていて、日本の教育現場との違いが見て取れます。
海外事例2.イギリス
ヨーロッパにおいて、イギリスは学級規模がトップクラスに大きいといわれています。しかしながら、日本よりは少人数学級であり、2010年の平均学級規模は25.8人。小学校1~2年生は1クラス30人以下と定められています。
「平成21年度学校基本調査(文部科学省)」によると、イギリスでは小学校全体で30人以下が87.7%、中学校全体で89.6%となっています。
35人の少人数学級がもたらす効果や課題は?
少人数学級は教員の「きめ細やかな指導」を期待したものですが、具体的にどのような効果と課題が挙げられるでしょうか?
効果1.生徒の学力&学習態度の向上
少人数学級では、生徒が発言できる機会が増え、授業が活発化することが期待されます。2002年に少人数学級を導入した山形県では、不登校や欠席をする生徒の減少、「全国学力・学習状況調査」で全国平均(公立)を上回るなど、少人数学級による効果が見られたそうです。
効果2.教員の労働環境改善
文部科学省の発表では、2006年の調査で教員の1か月あたりの残業時間は約42時間。1966年調査の約8時間と比べると、残業時間が大きく膨らみ、教員の労働環境の改善が求められていました。
少人数学級に変更することで、教員の職務軽減が期待されます。教員が生徒との関係性を育む余裕が生まれれば、生徒一人ひとりに合った個別指導が充実するでしょう。
課題1.都市部を中心とした教員不足
少人数学級の導入でクラス数が増えると、教員不足が心配されます。教員志望者数が減っていることもあり、十分な資質を持った教員を揃えられるかを不安視する声も。特に東京・愛知・大阪など都市部での「教員不足や教室不足」が懸念されています。
課題2.豊かな人間関係を育む難しさ
少人数学級で1クラスあたりの生徒数が減ると、クラスで出会える友だちの数が減ってしまいます。また、教員と生徒の相性が合わない場合、少人数がゆえに教員との密なかかわりを嫌がる生徒も出るかもしれません。
学校での学習活動に関心を持ち、積極的に子どもと会話を
約40年ぶりの学級規模の引き下げと聞くと大げさに聞こえますが、地方ではすでに少人数学級を導入している学校も多数あります。
保護者として気になるのは、少人数学級への引き下げによって伴う、子どもの変化ではないでしょう。親が学校での学習活動に関心を持ち、「何がおもしろかった?」「先生と何を話したの?」など積極的に家庭で会話することで、子どもの学習意欲が高まるかもしれません。
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